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ワイヤー矯正にもデジタル“見守り”は必要か?
マウスピース矯正と比べて、ワイヤー矯正とデンタルモニタリング(DM)の組み合わせは、まだ広く普及しているとは言えません。
その理由は明快です。
まず一つ目に、マウスピース矯正では、患者自身がアライナーを自己管理・交換するため、装着状況をAIが確認する意義が大きく、DMとの相性が非常に良好です。一方で、ワイヤー矯正は毎回の通院が前提であり、医師が診察を行うため、「AIでモニタリングする意味は少ない」と思われがちです。
次に、ブラケット装置の脱落検知に関しても、AIによる検知よりも先に患者さん自身が気づくケースも多く、「DMで検知する意味があるのか?」という意見があるのも事実です。
こうした理由から、ワイヤー矯正におけるDM導入はまだ賛否が分かれています。
しかし──
実際に当院(奈良)では、DMをワイヤー矯正治療に積極的に取り入れ、すでに多くの患者さんにご利用いただいています。その結果、明確な臨床的メリットが見えてきました。
ワイヤー矯正 × DM活用の3つの具体的なメリット
① ワイヤー交換などの最適タイミングがわかる
DMの記録をもとに、治療の進行状況を客観的に把握することで、
- 「もう交換すべきか?」
- 「次の段階に進めて良いか?」 といった判断をサポートします。
▶ ただしこの確認は“毎回スキャン画像を人が確認”する必要があるため、AIが自動判定するマウスピース矯正ほどの効率性はありません。
② 非常事態(歯の変色・歯肉の変化)を早期にキャッチ
DMのスキャンを通して、以下のような変化に気づくことがあります:
- 歯の変色(歯髄壊死の兆候)
- 歯ぐきの退縮や炎症兆候
▶ 治療そのものを即座に変えられるわけではないとしても、予後管理や早期リスク把握に役立ちます。
③ 来院前の状態を確認できる=精度の高い治療判断が可能
来院直前のスキャンを見ることで、
- どの歯がどの程度動いたのか?
- スペース閉鎖は進んでいるか? といった情報を把握できます。
▶ 特に混雑時など、多くの患者さんを診るなかで単純な見落としを防げるという意味でも、大きな価値があります。
実症例紹介:DMで進行停滞を発見し、改善できたケース
ある患者様は、「上の前歯のガタガタ」を主訴に来院。 上顎両側4抜歯+マルチブラケット装置による治療計画を提案しました。
矯正治療の流れは以下の4段階です:
- レベリング(歯並びを整える)
- リトラクション(スペースを閉じる)
- ディテーリング(細かい調整)
- リテンション(安定を見守る)
この患者様は、初期のレベリングが約3ヶ月で終了。 その後リトラクション(抜歯スペース閉鎖)に移行しましたが、5月以降のスキャン画像でスペースの変化が停滞していることがわかりました。
DMの記録によって:
- 「ワイヤーが効いていない」可能性を認識
- ワイヤーを追加加工し、2週間おきに来院していただく形に変更
- スペース閉鎖が再び進み、ディテーリングに移行
現在はリテンション中で、DMを用いて後戻りがないかを確認しています。
この症例は、デンタルモニタリングの症例レポートとしても登録されています。


まとめ:ワイヤー矯正にも“見守りAI”の恩恵はある
確かに、マウスピース矯正に比べるとDMのメリットは限定的かもしれません。
しかし、
- 非常事態の早期察知
- 治療判断のサポート
- 単純ミスの予防
といった観点で、ワイヤー矯正でもDMが貢献する場面は確実に存在します。
「AI指揮官」ではなく「アシスタント参謀」かもしれませんが、今後のワイヤー矯正において、DMは“新しい当たり前”になる可能性を秘めています。
