今回は、生まれつき永久歯が3本ない15歳の女性が、インプラントやブリッジではなく矯正治療でスペースを閉じた症例を写真付きで解説します。
目次
初診カウンセリング — 「永久歯が生えてこないと言われました」
| 年齢・性別 | 15歳 女性 |
| 主訴 | 生まれつき歯がない(先天性欠如歯) |
| 欠如歯 | 下の左右5番 + 左上5番(計3本) |
| きっかけ | 顎関節症でかかりつけ歯科を受診した際に指摘 |
| 治療期間 | 約2年 |
| 装置 | 表側矯正(クリアブラケット) |
| 抜歯 | 下の左右E(乳歯)+ 右上E |
ご本人にとって「永久歯がない」という事実自体が初めて知った驚きでした。さらに「インプラントかブリッジ」と言われ、大がかりな治療が必要なのでは……と心配されていました。
しかし、15歳という年齢と歯の状態を詳しく調べた結果、矯正治療でスペースを閉じることが可能だと判断しました。
先天性欠如歯とは? — 実は10人に1人
日本人の約10人に1人に見られるとされており、決して珍しい状態ではありません。下の第二小臼歯(5番目の歯)と上の側切歯(2番目の歯)に多く見られます。
パノラマX線を見ると、本来あるべき位置に永久歯がないことが分かります。今回のケースでは下の左右5番と左上5番の計3本が欠如していました。
治療の選択肢は3つ
先天性欠如歯の治療には大きく3つの選択肢があります。
| 選択肢 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 1. インプラント | 歯がない部分に人工の歯根を埋める | 成長期には不可。1本30〜50万円。外科手術が必要 |
| 2. ブリッジ | 隣の健康な歯を削って橋渡しの被せ物をする | 健康な歯を削る必要がある |
| 3. 矯正でスペース閉鎖 | 歯を動かしてスペースを自然に閉じる | 自分の歯だけで完結。成長期でも可能 |
今回は15歳で成長期のためインプラントは適応外。ブリッジは健康な歯を削るため、まず矯正でスペースを閉じる方針としました。自分の歯だけで噛み合わせを作れるのが、矯正治療の大きなメリットです。
CT診断 — Class II ハイアングル
CT撮影とセファロ分析の結果、骨格的な特徴として上あごがやや前方に位置していること(Class II傾向)と、お顔が縦に長い傾向(ハイアングル)があることが分かりました。
また、下の前歯が基準値よりも前に傾いていました。これは欠如歯がある場合によく見られる所見で、歯が足りない分、残っている歯が傾いてスペースを埋めようとした結果です。
通常の矯正治療に加えて、先天性欠如の場合は以下を追加で確認します。
・乳歯の根の状態(どのくらい吸収されているか)
・親知らずの位置と大きさ(スペース閉鎖後に利用できるか)
・欠如部分の骨の厚み(歯を動かす先に十分な骨があるか)
これらをCTで3次元的に確認してから治療計画を立てます。
治療計画:乳歯を抜いてスペースを閉じる
下の左右に残っていた乳歯(E)を抜歯し、そのスペースに後ろの歯を前に移動させて閉鎖します。上は左に欠如があるため、バランスを取るために右上Eを抜歯。左右対称の歯並びを作る計画としました。
治療経過 — 2年間の記録
まず下の乳歯(E)と右上Eを抜歯。その後、上下にクリアブラケットを装着しました。
先天性欠如で残っている乳歯は、永久歯への生え変わりがないため長持ちすることもあります。しかし、いずれ根が吸収して抜けてしまうため、矯正治療で計画的に抜歯してスペースを閉じる方が長期的に安定します。
乳歯を抜いたスペースに向かって歯が移動し始めました。毎回の来院で抜歯スペースをノギスで計測し、閉鎖の進行を数字で確認します。
歯を動かす力は約50グラム。コンビニのおにぎり半分くらいの重さです。先天性欠如の場合、欠如部分の骨が薄いことがあるため、通常以上に力の管理が重要です。レントゲンで歯根の長さを毎回確認しながら、安全に歯を移動させます。
12ヶ月後にはスペースがかなり閉じてきました。この段階で舌の癖や歯磨きの状態もチェック。矯正中に虫歯にならないよう、毎回の来院で口腔衛生の確認をしています。
すべてのスペースが閉鎖し、しっかり噛み合う歯並びが完成しました。インプラントもブリッジも使わず、自分の歯だけで治療が完了しています。この症例の詳しい治療データは症例No.81のページでもご覧いただけます。
Before / After
口腔内 右側面
横顔
治療を終えて — 院長より
氏井矯正歯科クリニック 院長 氏井 庸介
「インプラントかブリッジしかない」と思って来院される方は少なくありません。もちろん、症例によってはインプラントが最善の選択肢になることもあります。
しかし、成長期のお子さんの場合、矯正治療でスペースを閉じることで自分の歯だけで噛み合わせを作ることができるケースがあります。自分の歯で噛めるということは、将来的なメンテナンスの負担も少なく、長期的に安定しやすいメリットがあります。
先天性欠如歯は10人に1人に見られるもので、決して珍しくありません。「うちの子は大丈夫かな?」と思ったら、まずはレントゲンで確認してみてください。