「出っ歯をマウスピースで治したいけれど、抜歯が必要ならワイヤー矯正しかできないのでは?」——そのように不安に感じている方もいるのではないでしょうか。抜歯が必要な出っ歯でも、歯の移動量や噛み合わせ、固定源などの条件がそろえば、マウスピース矯正で治療できる場合があります。今回は、骨格性上顎前突に対して上顎の小臼歯を2本抜歯し、アンカースクリューと顎間ゴムを併用して、マウスピース型矯正装置で治療した26歳女性の症例をご紹介します。
目次
治療前後の変化(Before・After)
上顎左右の小臼歯を2本抜歯し、抜歯スペースを利用して上顎前歯を後方へ移動しました。治療期間は2年11か月です。治療後は、上顎前歯の突出がやわらぎ、抜歯スペースは閉鎖しています。
治療結果には個人差があります。
症例の概要
| 患者さま | 26歳・女性(奈良市) |
|---|---|
| 主訴 | 前歯が出ているのを治したい |
| 診断名 | 骨格性上顎前突(ANB 7.0°) |
| 治療装置 | マウスピース型矯正装置 |
| 抜歯部位 | 上顎両側 第一小臼歯(左右4番・計2本)/下顎は非抜歯 |
| 併用処置 | アンカースクリュー・顎間ゴム・スライスカット(IPR)・アタッチメント |
| 治療期間 | 2年11か月 |
| 費用(税込) | 精密検査・診断料 55,000円/矯正料金 940,000円/毎回の処置料 3,300円 |
| 現在の状態 | 保定中(後戻りを防ぐ期間) |
治療前はどのような出っ歯だったのか
上の前歯が前方に出ていることが、この患者さまの一番のお悩みでした。精密検査の結果、前歯の傾きだけでなく、上下の顎の前後的なバランスも関係していることが分かりました。セファロ分析(頭部X線写真の分析)ではANB 7.0°。上下の顎の前後的なずれを示す数値で、標準は2〜4°です。数値だけで治療方針が決まるわけではありませんが、骨格レベルで出っ歯の傾向があることを示す所見です。
そのほかに、次の問題点がありました。
- 上下の歯並びに軽いでこぼこ(叢生)
- 歯列の正中(中心線)の左側へのずれ
- 特に右側の奥歯に、前後的な噛み合わせのずれ(Angle Class II)
出っ歯のタイプや治療法の全体像は、上顎前突(出っ歯)の治療ページで解説しています。
このような分析による簡易診断(有料)は、初診カウンセリングの当日にお受けいただくことも可能です。詳しくは初診カウンセリングのご案内をご覧ください。
なぜ上下4本ではなく、上顎だけ2本を抜歯したのか
上顎は、前歯を後方へ移動させるためのスペースが必要だったため、左右の4番(前から4番目の小臼歯)を抜歯しました。一方、下顎のでこぼこは軽度で、下顎前歯を大きく後方へ移動させる必要はありませんでした。そのため下顎は抜歯せず、IPR(歯と歯の間をわずかに調整する処置)でスペースを調整しています。
抜歯本数は、「出っ歯だから4本」と診断名だけで一律に決めるものではありません。上下の前歯の位置、でこぼこの量、奥歯の噛み合わせ、横顔のバランスなどを総合的に確認して決定します。矯正治療で抜歯が必要になる理由は、矯正で抜歯は必要?判断基準の記事で詳しく解説しています。
抜歯が必要な出っ歯をマウスピースで治療するための設計
抜歯が必要な出っ歯でも、前歯を後方へ動かすための固定源や噛み合わせを適切に設計することで、マウスピース矯正を選択できる場合があります。本症例では、次の補助装置と処置を組み合わせて治療しました。
アンカースクリュー
上顎前歯を後方へ移動させるための固定源です。抜歯スペースを閉じるとき、歯を引っ張る力は奥歯にも反対向きにかかるため、奥歯が前方へ動いてしまうことがあります。本症例では、その動きを抑え、前歯を後方へ移動させるための補助としてアンカースクリューを使用しました。詳しくはインプラント矯正(アンカースクリュー)のページをご覧ください。
顎間ゴム
上下の歯にかける小さなゴムです。本症例では、特に右側にあった前後的な噛み合わせのずれを調整する目的で使用しました。顎間ゴムは患者さまご自身に毎日かけていただく必要があり、使用協力が治療の進み方に影響します。仕組みは顎間ゴム(エラスティック)の解説記事で説明しています。
IPR(スライスカット)
歯と歯の間をわずかに調整する処置です。本症例では、下顎の軽度のでこぼこを整えるスペースの確保と、上下の歯の大きさのバランス調整のために行いました。
アタッチメント
マウスピースから歯へ力を伝えるための、歯の表面につける小さな突起です。マウスピースだけでは難しい歯の動きを補助する目的で使用しました。
治療経過
治療中は通院時に、マウスピースの適合や歯の動きを確認しながら進めました。マウスピース矯正は1日22時間以上の装着が前提のため、装着時間を守っていただくことも治療計画どおりに進めるための大切な条件です。
スライダーを動かすと、抜歯スペースを利用して歯が動いていく様子を確認できます
治療後に改善したこと
- 上顎前歯の突出:抜歯スペースを利用して前歯を後方へ移動し、改善しました
- 抜歯スペース:閉鎖しています
- 右側の奥歯の噛み合わせ:顎間ゴムを併用して調整しました
どのような方ならマウスピース矯正を検討できるのか
次のような方は、抜歯が必要な場合でもマウスピース矯正を検討できる可能性があります。
- 出っ歯をマウスピースで治したい
- 抜歯が必要と言われた
- ワイヤー矯正以外の可能性も知りたい
- アンカースクリューや顎間ゴムの使用に協力できる
- マウスピースの装着時間(1日22時間以上)を守れる
- 治療途中の追加処置や計画修正について理解できる
ただし、条件に当てはまれば必ずマウスピースで治療できる、というものではありません。適応かどうかは精密検査と診断で判断します。マウスピース矯正の仕組みや種類はマウスピース矯正のページを、前歯の傾きが主体の出っ歯を非抜歯で治療した例は症例30もあわせてご覧ください。
すべての抜歯症例がマウスピースで治療できるわけではない
抜歯が必要な出っ歯でもマウスピース矯正を選択できる場合がありますが、すべての症例に適しているわけではありません。歯の移動量や歯根、歯槽骨、噛み合わせ、装着時間などによっては、ワイヤー矯正の方が適している場合があります。どちらが適しているかは、CT・セファロ分析などの精密検査をもとに診断したうえでご提案します。
リスク・注意点
矯正治療の主なリスク・注意点
- 歯肉退縮(歯ぐきが下がる)・歯根吸収(歯の根が短くなる)
- 歯髄壊死・癒着による予期しない歯の動き
- 清掃不良による虫歯・歯周病
- 治療後の後戻り(保定装置の使用が必要です)
- 装着時間が不足した場合、治療計画とのずれが生じる
- 仕上げのために追加アライナーが必要になる可能性
- 治療の状況により、治療方法を変更する可能性
よくあるご質問
- Q. 抜歯が必要な出っ歯でもマウスピース矯正はできますか?
- 歯の移動量、噛み合わせ、固定源などの条件によっては可能です。本症例では、アンカースクリューと顎間ゴムを併用して治療しました。
- Q. 出っ歯の治療では何本抜歯しますか?
- 上下4本を抜歯する場合もあれば、本症例のように上顎2本のみを抜歯する場合もあります。上下の前歯の位置、でこぼこ、噛み合わせ、横顔などを確認して決定します。
- Q. 抜歯をすると口元は引っ込みますか?
- 前歯を後方へ移動させる量によって、口元の変化が期待できます。ただし、変化の程度には個人差があるため、治療前に横顔の写真やセファロ分析で確認します。
- Q. 抜歯を伴うマウスピース矯正の治療期間はどのくらいですか?
- 症例によって異なります。本症例の治療期間は2年11か月でした。歯の移動量、装着時間、追加アライナーの有無などによって治療期間は変わります。
- Q. 他院でワイヤー矯正を勧められました。相談できますか?
- 相談可能です。マウスピースで治療できるのか、ワイヤー矯正の方が適しているのかを、現在の歯並びと噛み合わせを確認して判断します。
「抜歯が必要」と言われた方へ
「抜歯が必要と言われたけれど、できればマウスピースで治したい」——そのような場合も、最初からマウスピース矯正を諦める必要はありません。氏井矯正歯科クリニックでは、現在の歯並びや噛み合わせを確認し、マウスピースで治療できるのか、どのような補助装置が必要なのか、ワイヤー矯正の方が適しているのかをご説明します。まずは初診相談(無料)でご相談ください。