氏井矯正歯科クリニックでは、お子さまのカウンセリングで犬歯の位置を必ず確認しています。「なぜ犬歯をそんなに気にするんですか?」と聞かれることがありますが、これには明確な理由があります。
目次
犬歯の位置を気にする理由 ― 側切歯の歯根吸収
上の犬歯は、永久歯の中で最後のほうに生えてきます。生えてくる途中で方向を間違えると、骨の中に埋まったまま出てこれなくなります。これが埋伏犬歯です。
問題は「出てこない」だけではありません。方向を間違えた犬歯は、隣の歯(側切歯)の根っこにぶつかり、溶かしてしまうことがあります。これを歯根吸収と呼びます。
側切歯の根が吸収されると、その歯の寿命が短くなります。最悪の場合、将来的に抜歯が必要になることもあります。これは矯正治療の問題ではなく、歯を1本失うかどうかの問題です。
だから当院では、犬歯の位置を重要視しています。これは経験則や勘ではなく、研究データに基づいた判断です。
根拠となる論文 ― 乳犬歯の抜歯は犬歯の萌出を助けるのか
当院がこの判断の根拠としている論文があります。
Alyammahi AS, Kaklamanos EG, Athanasiou AE.
Effectiveness of extraction of primary canines for interceptive management of palatally displaced permanent canines: a systematic review and meta-analysis.
European Journal of Orthodontics, 2017. doi:10.1093/ejo/cjx042
ヨーロッパ矯正歯科学会誌(EJO)に掲載された、5つのランダム化比較試験(RCT)を統合したメタアナリシスです。「埋伏犬歯に対して、乳犬歯を抜くことで永久犬歯の萌出を促せるか」を検証しています。
この論文が明らかにしたこと
1. 乳犬歯を抜いた子は、何もしなかった子に比べて約1.8倍、犬歯が自力で生えてきた
214人を対象に、12ヶ月以上追跡した結果です(リスク比 1.784、P = 0.000)。ただし、すぐに差が出るわけではなく、効果が確認されたのは12ヶ月を過ぎてから。平均で15.6ヶ月かかっています。
2. 乳犬歯を抜いても、隣の歯への悪影響は増えなかった
「乳歯を抜いたら隣の歯に悪影響があるのでは」という心配がありますが、この論文では歯根吸収のリスクに有意差はありませんでした(リスク比 0.602、P = 0.200)。
3. ただし、全員が成功するわけではない
乳犬歯を抜いた後に犬歯が自力で出てきた割合は50〜69%。半数以上は成功しますが、残りの子には次のステップ(開窓牽引)が必要になります。
当院でも、実際に側切歯の吸収が見つかっています
この論文の話は、教科書の中だけのことではありません。当院のCT検査でも、犬歯が側切歯の根を吸収しているケースは実際に見つかっています。
レントゲンだけでは見えないことがあります。当院では3DデジタルCTを使って犬歯の正確な位置・角度・隣接歯との距離を三次元で確認しています。パノラマでは奥行きがわかりませんが、CTなら犬歯が口蓋側(内側)にいるのか頬側(外側)にいるのかまで正確に把握できます。
だから「乳犬歯の抜歯」を提案することがあります
お子さまの歯を抜く。それが「乳歯だから」と軽い話ではないことは、よくわかっています。お子さまにとって歯を抜かれるのは怖いことですし、親御さんにとっても「本当に抜いて大丈夫なのか」と不安になるのは当然です。
それでも提案するのは、今この乳歯を抜かなければ、将来もっと大きな負担がお子さまにかかる可能性があるからです。
乳犬歯を1本抜く負担と、将来歯ぐきを切開して犬歯を引っ張り出す手術の負担。あるいは、側切歯の根が溶けて歯を失う可能性。それを天秤にかけたとき、今動くことで避けられるリスクがあるなら、心を鬼にしてお伝えするのが専門医の役割だと考えています。
実際の症例 ― 論文のプロトコル通りに進めた経過
ここからは、当院で実際に乳犬歯の抜歯を行い、論文に基づいて経過を追った症例をご紹介します。この症例は、論文が示す「50〜69%は自力で生えてくる」に当てはまらなかったケースですが、だからこそ、段階的に判断していくことの意味がよくわかります。
乳犬歯の抜歯だけで全員が解決するわけではありません。しかし、まず負担の小さい方法(乳歯抜歯)を試し、効果がなければ次のステップ(開窓牽引)に進む。この段階的なアプローチは、論文が推奨するプロトコルそのものです。いきなり手術ではなく、お子さまへの負担を最小限にしながら、根拠に基づいて判断を重ねていきます。
ただし、論文が正しくてもお子さまの気持ちは別の話です
論文データが「乳歯を抜いた方が有利」と言っていても、目の前のお子さまが極度に怖がっていたり、心の準備ができていなかったりする場合は、無理に抜くことはしません。
当院では以下のように対応しています。
- まずCTで状況を正確に把握する ― 抜歯が必要なのか、経過観察でよいのかを判断する材料を揃える
- 親御さんに根拠を説明する ― 論文データと当院の経験を合わせて、なぜ提案しているのかをお伝えする
- お子さまのペースに合わせる ― 次の定期検診まで待って、心の準備ができてから処置することもあります
- 定期検診で経過を追う ― 犬歯の位置が変わっていないか、吸収が進んでいないかをデンタルX線で確認し続ける
データが示す「正しいタイミング」と、お子さまにとっての「受け入れられるタイミング」は必ずしも同じではありません。定期検診で状況をモニターしながら、両方のタイミングが重なるポイントを一緒に探していく。それが、当院のカウンセリングの基本方針です。
よくある質問
Q. 犬歯が埋まっていると言われました。すぐに手術が必要ですか?
必ずしもすぐに手術が必要とは限りません。乳犬歯がまだ残っている場合、まず乳歯を抜いて経過を見るという選択肢があります。論文データでは、この方法で50〜69%のお子さまの犬歯が自力で生えてきています。ただし、CTで犬歯の位置を正確に評価したうえでの判断が必要です。
Q. 乳歯を抜くと隣の歯に悪影響はありませんか?
この論文では、乳犬歯を抜いたことで隣接する永久歯の歯根吸収リスクが増えるという結果は出ていません。むしろ、乳歯を抜かずに犬歯を放置する方が、側切歯の歯根吸収が進むリスクがあります。
Q. 子供が怖がっています。無理に抜いた方がいいですか?
無理に抜くことはしません。定期検診でCTやデンタルX線を使い、犬歯の位置と吸収の進行を確認しながら、お子さまの心の準備が整ったタイミングで処置を行います。ただし、吸収が進行している場合は早めの対応をお勧めすることがあります。
Q. 何歳までに受診すれば間に合いますか?
当院では8歳前後での検査を推奨しています。犬歯が萌出する前に位置を把握できれば、乳歯抜歯のタイミングを逃さずに済みます。論文の対象も10〜13歳で、効果が出るまでに平均15.6ヶ月かかるため、逆算すると早めの確認が重要です。子どもの矯正治療のページもあわせてご覧ください。
Q. 費用はどのくらいですか?
まずは初診相談(無料)で状態を確認させてください。CTによる簡易診断が必要な場合は4,400円(税込)です。精密検査は16,500円(税込)ですが、初診相談から3ヶ月以内であれば4,400円割引になります。なお、成人で埋伏犬歯の牽引が必要な場合はケースにより追加で10万円程度かかることがあります。詳しくは料金ページをご確認ください。
院長より
氏井矯正歯科クリニック 院長 氏井庸介
犬歯の位置を確認するたびに、提案に迷うことがあります。「この子の乳歯、抜いた方がいい」とわかっていても、お子さまの顔を見ると簡単には言えません。
でも、今この判断を先送りにしたら、数年後にもっと大きな処置が必要になるかもしれない。側切歯の根が吸収されて、取り返しがつかないことになるかもしれない。そう考えると、やはりお伝えしなければいけない。
論文データは、その判断を支えてくれる根拠です。ただ、最終的に決めるのはデータではなく、親御さんとお子さまです。当院では、その判断に必要な情報を全てお見せした上で、一緒に考えていきます。
お子さまの犬歯の位置、確認してみませんか?
初診相談は無料です。CT撮影による簡易診断が必要な場合は4,400円(税込)で、犬歯の位置を確認し今後の見通しをお伝えします。
まずは気軽に → 初診相談(無料)の詳細はこちら