「奥歯は噛んでいるのに、前歯が噛み合わない」「前歯で食べ物を噛み切れない」——このような状態を開咬(かいこう)といいます。開咬は、歯の状態によってはマウスピース矯正で改善できる場合があります。今回は、前歯が噛み合わない開咬を、歯を抜かずにマウスピース矯正で治療し、治療中はデンタルモニタリングで経過を確認した27歳女性の症例を、治療前後の写真・期間・費用・リスクとあわせてご紹介します。
目次
症例:前歯が噛み合わない開咬をマウスピース矯正で改善(症例No.59)
| 患者さま | 27歳・女性(大和高田市) |
|---|---|
| 主訴 | 前歯でものが噛みきれない |
| 診断名 | 開咬(前歯部開咬) |
| 治療装置 | マウスピース型矯正装置 |
| 抜歯 | なし(非抜歯) |
| 併用 | デンタルモニタリング(経過確認)・アタッチメント |
| 治療期間 | 1年1か月 |
| 費用(税込) | 精密検査・診断料 55,000円/矯正料金 940,000円/毎回の処置料 4,400円 |
| 現在の状態 | 保定中(後戻りを防ぐ期間) |
この症例の結論
上下の奥歯を圧下(歯を歯ぐき側へ沈める動き)することで、前歯が噛み合うように改善しました。抜歯はせず、マウスピース矯正で治療し、治療中はデンタルモニタリングで歯の動きを確認しました。治療期間は1年1か月でした。


治療結果には個人差があります。
開咬(前歯が噛み合わない)とは
開咬とは、奥歯で噛んだときに上下の前歯が噛み合わず、すき間があいてしまう状態のことです。前歯でものを噛み切りにくい、発音が気になる、口が閉じにくいといったお悩みにつながることがあります。今回の患者さまも、「前歯でものが噛みきれない」ことが一番のお悩みでした。
開咬の原因はさまざまで、舌で前歯を押す癖、指しゃぶりの名残、あごの骨格的な傾向、奥歯の高さなどが関係する場合があります。原因や程度によって適した治療方法が異なるため、まず精密検査で状態を確認します。開咬の治療法全体は、開咬はマウスピース矯正で治せる?(費用・期間・ワイヤーとの違い)で解説しています。
なぜマウスピース矯正で開咬を治療できたのか
開咬を治すには、「前歯を伸ばして噛み合わせる」よりも、奥歯を圧下(歯ぐき側へ沈める)して、あごを閉じる方向に回転させ、前歯が噛み合うようにする治療が有効な場合があります。本症例では、上下の奥歯を圧下し、前歯が噛み合う状態へ改善しました。
マウスピース型矯正装置は、装置が歯全体を覆う構造のため、奥歯を圧下する動きに対応しやすいという特徴があります。今回はこの特徴を活かして治療を進めました。ただし、骨格的な傾向が強い開咬や重度の開咬では、ワイヤー矯正や外科的矯正治療が適している場合もあります。マウスピース矯正が適応するかどうかは、精密検査で判断します。
デンタルモニタリングで経過を確認しました
本症例では、治療中にデンタルモニタリングを使用しました。患者さまがご自宅でスマートフォンから口の中を撮影し、その画像をもとに歯の動きを確認する仕組みです。
開咬の治療で行う「奥歯の圧下」は、変化がゆっくりで確認が大切な動きです。デンタルモニタリングを併用することで、来院と来院の間にもマウスピースの適合や歯の動きを確認し、必要に応じて対応できました。
デンタルモニタリングについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
治療経過
マウスピースを段階的に交換しながら、奥歯の圧下を進めました。マウスピース矯正は1日22時間以上の装着が前提のため、装着時間を守っていただくことも治療計画どおりに進めるための大切な条件です。
スライダーを動かすと、前歯が噛み合っていく様子を確認できます
治療後に改善したこと
- 前歯の噛み合わせ:奥歯の圧下により、前歯が噛み合う状態へ改善しました
- 前歯でものが噛みきれないお悩み:改善しました
治療期間は1年1か月でした。開咬は治療後に後戻りが起こりやすい傾向があるため、保定装置を使用して噛み合わせを安定させています。
リスク・注意点
矯正治療の主なリスク・注意点
- 歯肉退縮(歯ぐきが下がる)・歯根吸収(歯の根が短くなる)
- 歯髄壊死・癒着による予期しない歯の動き
- 清掃不良による虫歯・歯周病
- 治療後の後戻り(開咬は特に後戻りが起こりやすいため、保定装置の使用が重要です)
- 装着時間が不足した場合、治療計画とのずれが生じる
- 仕上げのために追加アライナーが必要になる可能性
- 治療の状況により、治療方法を変更する可能性
よくあるご質問
- Q. 開咬はマウスピース矯正で治せますか?
- 開咬の原因や程度によっては、マウスピース矯正で改善できる場合があります。本症例では、奥歯の圧下により前歯が噛み合う状態へ改善しました。骨格的な傾向が強い開咬や重度の場合は、ワイヤー矯正や外科的矯正治療が適することもあり、精密検査で判断します。
- Q. マウスピースでどうやって開咬を治すのですか?
- 「前歯を伸ばす」よりも、奥歯を圧下(歯ぐき側へ沈める)してあごを閉じる方向へ動かし、前歯が噛み合うようにします。マウスピース型矯正装置は歯全体を覆うため、この奥歯の圧下に対応しやすい特徴があります。
- Q. 開咬は治療後に後戻りしやすいですか?
- 開咬は後戻りが起こりやすい傾向があります。そのため、治療後は保定装置をしっかり使用して噛み合わせを安定させることが重要です。
- Q. 治療期間はどのくらいかかりますか?
- 症例によって異なります。本症例の治療期間は1年1か月でした。開咬の程度、歯の動き、装着時間などによって変わります。
- Q. デンタルモニタリングを使うと通院しなくてよいのですか?
- いいえ。デンタルモニタリングは来院の間にも歯の動きを確認できる仕組みですが、定期的な来院は必要です。通院間隔は治療内容や歯の動きによって異なります。
院長より
開咬は「前歯が噛み合わない」という見た目が似ていても、原因や噛み合わせの状態は患者さまによって異なります。大切なのは、装置を先に決めることではなく、開咬の原因と噛み合わせを正しく診断することです。今回の症例では、奥歯を圧下する治療が有効と判断し、非抜歯のマウスピース矯正で改善しました。一方で、骨格的な傾向が強い場合は別の治療方法が適することもあります。まずは初診相談で、現在の状態と考えられる治療方法をご説明します。