矯正治療というと、 前歯＝見た目、奥歯＝かみ合わせ この2つに目が向きがちです。
ですが、治療を進めていくうえで “犬歯”も非常に重要な役割 を担っています。
歯を抜く矯正治療は 整える → 下げる → 仕上げる → 守る という流れで進んでいきますが、 そのそれぞれのステージで 犬歯がどのように働くのか をまとめてみました。
上の図の犬歯の位置が比較的正常と言われています。
1. 犬歯の性質｜犬歯は“矯正のバランサー”
犬歯は、見た目以上に“奥が深い歯”です。
歯根が一番長い → 寿命が長い歯
前歯と奥歯のちょうど中間に位置する
噛み合わせの横滑りをガイドする
犬歯誘導」が顎の動きを安定させる
つまり犬歯は、 歯列全体の中心でバランスを取る“軸”のような歯。
2. 整える(レベリング)ステージで犬歯をどう動かすのか？
目次
● 犬歯の“位置合わせ”が最初の鍵
矯正の最初のステージでは 上下の犬歯の位置が正常かどうかを必ず確認します。
理由はシンプルで、 犬歯は矯正全体の基準点（リファレンスポイント） だからです。
この上の写真では犬歯が前に出すぎているので、下の写真のように上犬歯を後方へ下げてバランスを整えます。
● 犬歯をスムーズに動かすための工夫
犬歯は後方へ移動させるために ニッケルチタンでできた超弾性で形状記憶のある50gのクローズコイルで月0.5mm 程度の後方移動へ
ただし、
反応が鈍い犬歯
骨が厚い犬歯
根が長すぎる犬歯
など、“動きにくい犬歯” も一定数います。 これは原因がまだ完全に解明されておらず、 当院でも継続的にデータを集めています。
⭐ 犬歯がスムーズに動くポイント①
抜歯後は、骨が硬くならないうちに動かすのがコツ
抜歯直後の骨は柔らかく、 歯が動きやすい“ゴールデンタイム” です。
→ 「抜歯したら、早めに来院」していただくと早く歯が動きます！
● 犬歯の“動きやすさ”には個性がある
犬歯の根がとても長い
骨とぶつかっている場合があり、抵抗が強い場合がある
犬歯の傾斜角度など
動きやすい犬歯・動きにくい犬歯がいます。
接触なしの方が動きやすいようなイメージですが、論文では報告されていません。今後、動きやすさを調査していく予定です。
● DM＋で「犬歯の動き」が一目でわかる
DM＋は犬歯の動きを理解するうえで非常に有効です。
数値で比較すると 動いている／動いていないの差がハッキリ可視化 されます。
この下の図では、左下の動きがやや遅く良くない方向に傾斜しているのがわかりますので、ワイヤーや力のかけ方を工夫することが必要となります。
ちなみにこの左下の犬歯は。先程の図のように直立していました。さらに、動く歯のスペース骨の幅が少し細い傾向です。こういう場合はゆっくり移動させる事が必要です。
3. 閉じる(クロージング)ステージにおける犬歯の役割
犬歯の位置がある程度正しい位置に整ってくると、 いよいよ 全体的に前歯を後方へ下げていくステージ（クロージング） に入ります。
このときに特に大切なのが、 犬歯の「角度」の管理 です。
● 犬歯の角度がとても重要
犬歯の角度が傾きすぎてしまうと、 その影響がそのまま “矯正全体の質” に波及します。
前歯が傾斜しやすくなり、正しく後方へ下がらない
過蓋咬合（深い噛み合わせ）になりやすい
仕上げで犬歯誘導が作れなくなる
犬歯は“バランサー”であるため、 わずかな傾斜の変化が全体の噛み合わせへ連鎖しやすい のが特徴です。
そのため矯正歯科医は、 毎回来院ごとに犬歯の角度・位置・左右差を細かく確認し、 必要に応じてワイヤー調整やブラケット位置調整を行いながら軌道修正 をしていきます。
● 計画（デジタルセットアップ）と実際（DM＋）の差を見ながら調整
-
- 計画：デジタルセットアップで作成した「こう動くはず」の3D治療計画
この2つを重ねて比較することで、 犬歯の角度・移動量のズレが直感的に分かります。
4. 仕上げ(ディテーリング)と犬歯誘導について
最終的なゴールは 犬歯誘導が安定している状態。顎の横滑りをガイド
奥歯の負担軽減
噛み合わせが安定
犬歯が整う＝仕上げ成功 これは矯正医としての大きな判断基準です。
犬歯が“良い位置”にいけない専門的で意外な理由
① 側切歯が小さい・大きい（矮小歯／Big tooth）
側切歯が小さいと犬歯は前に出やすく → 犬歯誘導が作りにくい → 幅を足す必要があるが、患者さんは希望されないことが多い
② 上下の歯のサイズバランス（Bolton問題）
上の歯が大きいと → 出っ歯傾向 → 犬歯が前に位置してしまうことがある
→ だからこそ矯正では
「完璧ではなく、生理的な調和」をゴール にする。
6. 守る（リテンション）における「犬歯の幅」の注意点
犬歯の幅は、仕上げやリテンションの安定に大きく関わります。
● 犬歯の幅を大きくしすぎると後戻りしやすい
犬歯は歯列の“バランサー”であるため、 幅を広げすぎると噛み合わせの誘導が乱れ、 リテンション（保定）で安定しにくい状態 になってしまうことがあります。
特に、
犬歯誘導が作れない
横滑りしたときのガイドが不安定になる
奥歯に余計な負担がかかる
といった問題が生じやすく、 結果として 後戻りのリスクが高くなります。
番外編 埋伏犬歯について｜内部リンクのご案内
犬歯は矯正治療の中でもとても重要な役割を持っていますが、
まれに “埋伏（うまれた位置から出てこない）” している場合があります。
生えてくる方向
歯の位置
スペースの有無などによって、早期の判断と治療計画が大きく変わってきます
埋伏している犬歯については、
すでに詳しいブログ記事で解説していますので、
気になる方はこちらもご覧ください。
🦷 ▶ 今の歯並びをチェックしてみる（CTカウンセリング）
※初回カウンセリングでは、 CTと3D分析を用いて治療の流れ・期間・費用をわかりやすく説明します。
歯を抜く矯正治療の4のつステップについてはこちら
歯を抜く矯正治療で閉じる（クロージング）についてはこちら
