「前歯でものが噛み切れない」。奥歯で噛んでも上下の前歯が閉じない開咬(かいこう)は、麺類やサンドイッチを前歯で噛み切れず、困っている方が多い歯並びです。調べていくと「開咬は手術が必要」という情報も出てくるため、不安になる方も少なくありません。
今回ご紹介するのは、前歯で噛み切れないことが悩みで来院された27歳の女性です。この方は手術をせず、上の歯を2本抜歯してワイヤー矯正を行い、1年5か月で前歯が噛み合うようになりました。開咬の治療で手術が必要になるのはどんなときかも、あわせてご説明します。
目次
症例:前歯でものが噛み切れない(症例No.55)
ご相談のときのお悩みは、「前歯でものが噛み切れない」でした。治療前から治療後までの写真は、症例集の症例55でもご覧いただけます。
| 患者 | 症例No.55 / 27歳・女性 / 生駒市 |
|---|---|
| 主なお悩み | 前歯でものが噛み切れない |
| 診断名 | 開咬(奥歯で噛んでも前歯が閉じない状態) |
| 使用した装置 | 白い表側のワイヤー矯正 |
| 抜歯 | 上の左右1本ずつ、計2本(第一小臼歯) |
| 手術 | なし |
| 治療期間 | 1年5か月 |
治療前:奥歯で噛んでも前歯が閉じない
正面の写真を見ると、奥歯はしっかり噛んでいるのに、上下の前歯の間にすき間があいています。これが開咬です。前歯が触れないため、麺や野菜などを前歯で噛み切ることができません。
開咬は見た目だけの問題ではありません。前歯で噛み切れないぶん奥歯に負担がかかりやすく、発音(サ行・タ行など)に影響が出ることもあります。開咬そのものについては開咬(前歯がひらいてる)のページで解説しています。
開咬は手術しないと治らない?
開咬の治療で手術が必要かどうかは、開咬の原因がどこにあるかで決まります。
- あごの骨そのものの形や大きさのずれが大きい場合:歯を動かすだけでは噛み合わせを作りきれないため、あごの骨の手術を組み合わせる「外科矯正」が必要になることがあります。この場合は、条件を満たせば保険が適用されます
- 歯の位置や傾きが主な原因の場合:手術をしなくても、矯正で歯を動かして前歯を噛み合わせられることが多いです
どちらに当てはまるかは、見た目だけでは分かりません。当院では、頭部のレントゲン(セファロ)やCTで骨と歯の位置を測ってから判断します。保険が適用される開咬については開咬の矯正は保険適用される?|自費との違いと判断ポイントで詳しく紹介しています。
この方は検査の結果、手術をせず矯正だけで治療できると判断しました。
上の2本だけを抜歯した理由
この方は、上の左右の歯を1本ずつ、計2本抜歯しました。抜いてできたすき間は、上の前歯の位置を整えるための場所として使います。
治療前の写真では、上の前歯が前に傾き、前歯どうしにもすき間がありました。抜歯でできた場所を使って上の前歯の傾きを整えながら、上下の前歯が触れ合う位置まで動かしていきます。
抜く・抜かないの判断は、歯並びや噛み合わせの状態によって変わります。判断基準は矯正で抜歯は必要?判断基準と非抜歯のリスクを症例で解説をご覧ください。
手術の代わりに:奥歯を沈めて前歯を閉じる
開咬の方は、奥歯が先に当たってしまい、前歯が閉じないことがよくあります。そこでこの方は、上あごの骨に小さなネジ(矯正用のミニスクリュー)を入れ、それを支えにして上の奥歯を骨の方へ沈めるように動かしました。
奥歯がわずかに沈むと、下あごが少し上へ回るように閉じ、そのぶん上下の前歯の距離が近づきます。手術であごの骨を動かす代わりに、奥歯の高さを変えることで前歯を噛み合わせる方法です。治療10か月後と治療後の写真で、上あごの真ん中に見える装置がこのためのものです。
ミニスクリューについてはミニスクリューの成功率93%は本当?で解説しています。
治療の経過(1年5か月)
スライダーを動かすと、治療前から治療後までの歯並びの変化をご覧いただけます。
スライダーを動かすか、時点の文字をタップすると写真が切り替わります
治療結果には個人差があります。
10か月後の写真では、抜歯したすき間が閉じ、上下の前歯の間のすき間も小さくなっています。治療後は、正面の写真で上の前歯が下の前歯にきちんとかぶさるようになりました。前歯で噛み切れる状態です。
※治療期間には個人差があります。この症例と同じ期間で終わることをお約束するものではありません。当院の治療期間のデータは矯正治療の期間はどれくらい?当院の300症例以上のリアルデータ公開にまとめています。
横顔の変化
この方の治療の目的は、前歯で噛み切れるようにすることでした。横顔の大きな変化を目指した治療ではありませんが、口元の印象も確認しながら仕上げています。
この症例から言えること
- 開咬でも、原因が歯の位置や傾きなら、手術をせずに矯正で治せることが多いです
- 手術が必要かどうかは、レントゲンやCTで骨と歯の位置を測って判断します
- 抜歯でできた場所を使って前歯の傾きを整え、ミニスクリューで奥歯を沈めることで、前歯を噛み合わせました
- 開咬は後戻りしやすいため、治療後の保定装置が大切です
同じ開咬でも、抜歯をせずにマウスピース矯正で治療した例は開咬はマウスピース矯正で治せる?|費用・期間・ワイヤー矯正との違いで紹介しています。マウスピースとワイヤーは歯を動かす原理は同じで、得意な場面が違います。
費用と期間の目安
※2026年10月時点の当院の料金です(すべて税込)。この患者さまが治療を始めたときの料金とは異なります。外科矯正で保険が適用される場合の費用は異なります。
| 初診相談 | 無料(初診相談+CT簡易診断 4,400円) |
|---|---|
| 精密検査 | 16,500円(初診相談から3か月以内は4,400円割引) |
| 3Dデジタル診断(診断料) | 38,500円 |
| 表側矯正(クリアブラケット) | 83万〜93万円 |
| マウスピース型矯正 | 89万〜99万円 |
| 毎回の調整料 | 4,400円/回 |
最新の料金は料金ページでご確認ください。
よくある質問
- Q. 開咬は手術しないと治りませんか?
- 原因があごの骨の大きなずれにある場合は、手術を組み合わせた外科矯正が必要になることがあります。歯の位置や傾きが主な原因であれば、手術をせずに矯正で治せることが多いです。どちらに当てはまるかは、レントゲンやCTで確認してから判断します。
- Q. 前歯で噛み切れないのは矯正で治りますか?
- 前歯で噛み切れない原因が開咬であれば、矯正で上下の前歯が触れ合う位置まで動かすことで、噛み切れるようになることが期待できます。この方も、治療後は上の前歯が下の前歯にかぶさる噛み合わせになりました。
- Q. 開咬の矯正は保険が使えますか?
- あごの骨の手術が必要な「顎変形症」と診断され、指定の医療機関で外科矯正を行う場合は、保険が適用されます。手術をしない矯正は自費診療です。詳しくは開咬の矯正は保険適用される?をご覧ください。
- Q. 開咬はマウスピース矯正でも治せますか?
- 歯を動かす量が比較的少ない開咬であれば、マウスピース矯正で治療できることがあります。マウスピースは1日22時間以上の装着が必要です。抜歯をして歯を大きく動かす場合は、ワイヤー矯正が向いていることが多いです。
- Q. 開咬は治療後に戻りやすいですか?
- 舌で前歯を押す癖などがあると、治療後に前歯のすき間が戻りやすい歯並びです。治療後は保定装置(リテーナー)を使い、癖がある場合はその改善にも取り組みます。
院長より
「前歯で噛み切れない」は、毎日の食事のたびに感じる悩みです。開咬と聞くと「手術が必要なのでは」と心配される方も多いのですが、原因が歯の位置や傾きにあれば、手術をせずに治せることも少なくありません。大切なのは、原因が骨なのか歯なのかを、最初にきちんと確かめることです。前歯で噛めないことが気になっている方は、まず初診相談で一緒に確認しましょう。