矯正治療

【奈良の矯正歯科医が解説】抜歯矯正で人中(鼻の下)は伸びる?治療前後の横顔でわかった「伸びて見える」理由

氏井庸介

氏井矯正歯科クリニック
院長 氏井庸介

DOCTOR PROFILE

2026.10.20

「抜歯して矯正すると、鼻の下(人中)が伸びるって聞いたんですけど……」。口元が気になって相談に来られた方から、とてもよく聞かれる質問です。SNSで「矯正したら人中が伸びて老け顔になった」という投稿を見て、抜歯をためらっている方も少なくありません。

この記事では、当院で歯を抜いて矯正をした方の治療前と治療後の横顔を並べて、上唇がどう変わったのかを確かめました。人中が「伸びた」と感じられる理由と、当院が治療で気をつけていることもあわせてお話しします。

そもそも「人中が伸びる」とは何のこと?

人中(じんちゅう)は、鼻の下から上唇までの、縦にみぞがある部分のことです。上唇は、この肌色の部分(人中)と、その下の赤い部分(赤唇)の2つでできています。

横顔の上唇。鼻の下から赤い部分の上までが人中、その下から唇の合わせ目までが赤い部分(赤唇)
上唇=人中(肌色の部分)+赤い部分(赤唇)。症例79の治療前の横顔

口元が出ている人(いわゆる口ゴボ)は、前歯に押されて上唇がめくれ、赤い部分がたくさん見えています。抜歯をして前歯を後ろへ下げると、唇が内側に戻ります。このとき「人中が伸びた」と感じる人がいます。考えられる理由は3つです。

  1. 唇の赤い部分が減って、肌色の部分が増えて見える(上唇の長さは同じでも、比率が変わる)
  2. 前歯を下げすぎて、口元が平らになる(口元が内側に入りすぎた横顔)
  3. 前歯が内側に倒れたり、下に伸びたりする(唇を内側から支えるものがなくなる)

海外の論文でも、出っ歯の方が小臼歯を抜いて治療したあと、上唇の赤い部分が内側へ回り込むように変化し、赤い部分の高さが小さくなったと報告されています。一方で、「上唇そのものが伸びる」というはっきりした証拠は見つかりませんでした。

では、実際の患者さんではどうなのか。ここからが本題です。

結果1:口元はちゃんと下がっていた

まずは、そもそも口元が下がったのかを確認しました。Eラインは、鼻先とあご先を結んだ線です。唇がこの線よりも内側にあるほど、口元がすっきり見えます。

症例21の治療前後の横顔。紫の線がEライン。治療前は上下の唇が線より前に出ているが、治療後は線の近くまで下がっている
症例21:紫の線がEライン、紫の丸が上下の唇の一番前。治療結果には個人差があります

15人を測った結果は、次のとおりです。

  • 上唇は15人全員、Eラインに対して後ろへ下がっていました
  • 下唇は15人中13人が後ろへ下がっていました
  • 治療前に上唇がEラインより前に出ていた人は15人中13人。治療後は7人に減りました

抜歯をして前歯を下げると、口元はきちんと下がります。ここまでは予想どおりです。

結果2:上唇が「起き上がった」

次に、上唇の向きを見ました。使ったのは、鼻の下の線(紫)と上唇の線(オレンジ)がつくる角度です。この角度を鼻唇角(びしんかく)といいます。

症例21の鼻唇角。治療前は鼻の下の線と上唇の線の角度が90度で、上唇が前に倒れている。治療後は105度に開き、上唇が起き上がっている
症例21:治療前は90°、治療後は105°。線の位置は院長が計測。治療結果には個人差があります
  • 角度が小さい(治療前・90°):上唇が前に倒れて、鼻の下に近づいている状態。前歯に押されて、唇が前に突き出しています
  • 角度が大きい(治療後・105°):上唇が起き上がって、まっすぐ下に向いた状態。前歯が下がって、唇が押されなくなりました

15人を測ると、14人でこの角度が大きくなっていました(真ん中の値で+5.8°)。上唇の長さは変わらないまま、向きが変わったということです。

上唇が前に倒れているときは、唇がめくれて赤い部分が多く見えます。起き上がるとめくれが取れて、赤い部分が少なくなります。これが次の「人中が長く見える」話につながります。

じゃあ、なぜ人中が長く見えるのか

答えは、最初に挙げた理由の1つ目、唇の赤い部分が減ったことでした。人中が長くなった方を4人と、ほとんど変わらなかった方を1人、並べてみます。

青が人中、オレンジが唇の赤い部分、紫の線がEライン(鼻先とあご先を結んだ線)です。数字は「鼻の下〜あご先」の長さを100としたときの長さ。Eラインの数字は+がラインより前、−が内側です。線の位置は院長が計測しました。

症例84の治療前後の上唇。青が人中、オレンジが唇の赤い部分。上唇全体の長さはほぼ同じ。赤い部分が短くなったぶん、人中が長くなった
症例84:上唇全体の長さはほぼ同じ。赤い部分が短くなったぶん、人中が長くなった

いちばんわかりやすいのがこの方です。治療前は上唇がめくれて、赤い部分が人中より長く見えていました。治療後は唇が内側に入り、赤い部分が短くなっています。上唇全体の長さはほとんど同じなので、減った赤い部分が、そのまま人中に回った形です。

症例79の治療前後の上唇。青が人中、オレンジが唇の赤い部分。上唇全体は同じまま、赤い部分が減って人中が長くなった
症例79:上唇全体は同じまま、赤い部分が減って人中が長くなった
症例52の治療前後の上唇。青が人中、オレンジが唇の赤い部分。こちらも同じ動き。上唇が立って、めくれが取れた
症例52:こちらも同じ動き。上唇が立って、めくれが取れた
症例93の治療前後の上唇。青が人中、オレンジが唇の赤い部分。変化は小さめだが、同じ向きの動き
症例93:変化は小さめだが、同じ向きの動き

この4人に共通するのは、上唇全体の長さはほとんど変わらず、赤い部分と肌色の部分の境目だけが下にずれたことです。

人中がほとんど変わらなかった人もいた

症例43の治療前後の横顔。口元はEラインの内側へ下がったが、人中と赤い部分の長さはほとんど変わっていない
症例43:口元は下がったが、人中も赤い部分もほとんど変わらなかった

この方は、口元がEラインの内側へ下がりましたが、人中も赤い部分もほとんど変わりませんでした。治療前から唇のめくれが少なく、赤い部分がもともと控えめだった方です。同じ抜歯矯正でも、唇の変わり方は人によって違います。

つまり、人中そのものが伸び縮みしたのではありません。上唇の長さは同じまま、唇の向きが変わって赤い部分の見え方が変わった。これが「人中が伸びた」の正体だと考えています。

「たくさん下げると人中が伸びる」わけでもなかった

もう1つ意外だったことがあります。口元を下げた量(Eラインでの変化)と、人中の変化には、はっきりした関係は見られませんでした(相関係数 r=0.19。15人と少ないので、関係がないとまでは言えません)。たとえば症例47は、口元が大きく下がった1人ですが、人中はむしろ短くなりました(−17%)。反対に、口元の変化が小さめだった症例84は、人中が+27%と大きく長くなっています。

人中が長く見えるかどうかは、下げた量よりも治療前に唇がどれだけめくれていたかのほうが関係しているのかもしれません。ここは今回直接は調べていないので、これから確かめたいところです。

計測した15人のデータ

院長が計測した数値をそのまま載せます。人中の変化が大きい順に並べています。

症例上唇全体の長さ人中鼻唇角上唇とEライン
症例66+13.4%+36.7%+13.3°−0.8
症例84+1.9%+26.5%+12.1°−1.9
症例21+15.0%+18.5%+14.8°−7.1
症例52+5.5%+17.9%+9.4°−3.2
症例79+1.2%+16.8%+5.8°−5.3
症例93+2.8%+13.8%+0.9°−1.1
症例71+3.3%+5.9%+3.8°−2.4
症例63+4.5%+5.2%+0.8°−1.0
症例43+3.5%+3.1%+1.3°−1.9
症例22+0.1%+2.3%−1.8°−1.4
症例69−3.9%+1.2%+14.8°−2.0
症例32−0.3%−1.0%+7.7°−2.9
症例39−7.3%−10.6%+1.9°−1.2
症例53−5.1%−12.3%+21.4°−4.8
症例47−2.8%−17.2%+2.7°−5.8

上唇全体と人中は「鼻の下〜あご先」に対する割合の変化。上唇とEラインは「鼻先〜あご先」の長さに対する割合の変化で、マイナスは後ろへ下がったことを表します。

当院が治療で気をつけていること

実際のカウンセリングでも、院長はこんなふうに説明しています(口元が気になって相談に来られた20代の女性とのやりとりから、要点だけを抜き出しています)。

院長:上の前歯を、そのまま後ろに倒すように下げると、うさぎみたいな口元になって人中が伸びて見えるんです。

院長:なので当院では、ミニスクリュー(小さなねじ)を使って、前歯の角度を保ったままスーッと後ろへ下げるようにしています。そうすると人中は伸びにくい。

院長:ただ、唇がどう反応するかは人によって違うので、そこは約束できないと思っておいてください。

今回の計測でも、上唇の長さそのものはほとんどの方で変わっていませんでした。一方で、唇の反応は人によってかなり違いました。だから当院では、治療を始める前に次のことを確認しています。

  • 精密検査で横顔のレントゲンを撮り、前歯をどこまで下げるかを相談して決める(下げすぎない)
  • 前歯を下げるときに前歯が倒れたり下に伸びたりしないよう、角度をコントロールする
  • 治療前に唇が強くめくれている方には、赤い部分が減って人中が長く見えることがあると先にお伝えする

口元の出方のタイプについては、口ゴボ・出っ歯の原因をCT診断で解説(9分類パターン)で詳しく説明しています。抜歯するかどうかの判断は、矯正で抜歯は必要?判断基準と非抜歯のリスクもあわせてご覧ください。

費用の目安

  • 初診相談:無料(初診相談+簡易診断は4,400円)
  • 精密検査:16,500円(初診相談から3か月以内なら初診相談料4,400円を割引)
  • 3Dデジタル診断:38,500円
  • 表側矯正(白い装置):83万〜93万円
  • マウスピース型矯正:89万〜99万円
  • 調整料:4,400円/回

すべて税込。2026年10月時点の料金です。最新の料金は治療費のページでご確認ください。

よくある質問

Q. 抜歯矯正をすると、人中は伸びますか?
当院で歯を抜いて矯正した方の横顔を測ったところ、上唇全体の長さはほとんどの方で変わっていませんでした。ただし、治療前に唇がめくれていた方は、唇の赤い部分が減るぶん、人中が長く見えることがあります。
Q. 人中が長く見えるのを防ぐことはできますか?
前歯を下げすぎないこと、前歯が内側に倒れたり下に伸びたりしないように角度を保って下げることが大切です。当院ではミニスクリューを使って前歯の角度をコントロールしています。ただし、唇の反応には個人差があるため、必ず防げるとはお約束できません。
Q. 口元を大きく下げるほど、人中は伸びますか?
今回の計測では、口元を下げた量と人中の変化に、はっきりした関係は見られませんでした。ただし症例数が少ないため、関係がないとまでは言えません。
Q. 治療の前に、横顔がどう変わるか分かりますか?
精密検査で横顔のレントゲンを撮り、前歯をどこまで下げるかを相談して決めます。歯の動きはある程度予測できますが、唇などのやわらかい部分がどう変わるかは人によって違うため、目安としてご説明しています。
Q. 人中が気になって抜歯をためらっています。抜かない方法はありますか?
口元の出方が軽い場合は、歯を抜かずに奥歯を後ろへ動かして前歯を下げる方法もあります。ただし、抜かない場合は口元の変化も小さくなります。どこまで口元を下げたいかを含めて、検査の結果をもとにご相談します。
氏井矯正歯科クリニック 院長

院長より

「抜歯すると人中が伸びる」と聞いて、怖くなっている方は多いと思います。今回、当院の患者さんの横顔を並べてみると、変わっていたのは上唇の長さではなく、唇の向きと、赤い部分の見え方でした。

「伸びる・伸びない」で悩むより、ご自分の唇がいまどれくらいめくれているか、前歯をどこまで下げるのがちょうどいいかを、一緒に横顔を見ながら決めるほうがずっと大事です。気になる方は、初診相談で横顔の写真を見ながらご相談ください。

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