矯正で歯を抜くと聞くと、多くの方は「上下2本ずつ、計4本」を思い浮かべます。でも実際には、歯並びによって抜く歯の本数も場所も変わります。
今回ご紹介するのは、ガタガタと口元が気になって来院された23歳の女性です。この方の治療で抜いたのは、下の前歯1本と親知らずでした。上の歯は抜かずに、骨に入れた小さなネジを支えにして上の奥歯を後ろへ動かし、場所をつくりました。なぜ「下の前歯を1本だけ」という抜き方になるのかを、治療前後の写真とあわせて説明します。
目次
症例:下の前歯のガタガタと口元(症例No.70)
ご相談のときのお悩みは、「口元が出ている」ことと「ガタガタ」でした。治療前から治療後までの写真は、症例集の症例70でもご覧いただけます。
| 患者 | 症例No.70 / 23歳・女性 |
|---|---|
| 主なお悩み | 口元が出ている・ガタガタ |
| 診断名 | でこぼこ(叢生)。上の前歯が前に出た状態(上顎前突)もあり |
| 使用した装置 | 白い表側のワイヤー矯正+矯正用のミニスクリュー(インプラントアンカー) |
| 抜歯 | 左下の前歯1本(左下1番)と親知らず |
| 治療期間 | 2年8か月 |
治療前:下の前歯が重なり合っていた
治療前の写真では、下の前歯が重なり合って並びきれていないのが分かります。横から見ると、上の前歯が下の前歯より前に出ていました。
下の前歯を1本だけ抜く矯正とは
ガタガタを並べたり、前歯を後ろへ下げたりするには、歯を動かす場所が必要です。その場所のつくり方には、いくつか方法があります。
- 上下4本の抜歯:前から4番目か5番目の歯(小臼歯)を上下左右1本ずつ抜く。前歯を大きく下げたいときによく選ぶ方法
- 奥歯を後ろへ動かす:歯を抜かずに、奥歯を後ろへ動かして場所をつくる方法
- 下の前歯を1本だけ抜く:下の前歯4本のうち1本を抜き、残りの3本で前歯の列をつくる方法
下の前歯を1本だけ抜く方法は、ガタガタが下の前歯に集中していて、奥歯の噛み合わせを大きく変える必要がない場合などに選ばれることがあります。小臼歯を上下4本抜くより、抜く本数も、閉じるすき間も少なく済むのが特徴です。
一方で、下の前歯が3本になるため、上下の前歯のバランスや、上下の歯の真ん中(正中)の位置をどう合わせるかを、治療前によく計画する必要があります。どの抜き方が合うかは歯並びによって違うため、検査の結果をもとに決めます。抜く・抜かないの判断基準は矯正で抜歯は必要?判断基準と非抜歯のリスクを症例で解説で紹介しています。
この方が「下の前歯1本」を選べた理由:ボルトン分析
下の前歯を1本抜いてよいかどうかを決めるときに、当院が必ず確認するのがボルトン分析です。ボルトン分析は、上の歯と下の歯の大きさ(幅)のバランスを測る検査です。
上下の歯の大きさのバランスが合っていないと、下の前歯を1本減らしたときに、上の前歯とうまく噛み合わなかったり、すき間が残ったりします。この方はボルトン分析で上下の歯の大きさのバランスに問題がないことを確認できたため、下の前歯を1本だけ抜く方法を選びました。
ボルトン分析については、矯正で見落とせない3つの「歯のサイズ問題」|ボルトン分析・矮小歯・ブラックトライアングルで詳しく解説しています。
上の歯は抜かずに、奥歯を後ろへ動かした
この方は、上の前歯が前に出ている状態(上顎前突)もありました。ただ、上の歯は抜歯していません。代わりに、骨に入れた小さなネジ(矯正用のミニスクリュー=インプラントアンカー)を支えにして、上の奥歯を後ろへ動かし、前歯を下げる場所をつくりました。
歯どうしで引っ張り合うと、動かしたい歯だけでなく、支えにした歯も動いてしまいます。動かない骨のネジを支えにすることで、奥歯を後ろへ動かすことができます。ミニスクリューについてはミニスクリューの成功率93%は本当?で解説しています。親知らずを抜いたのは、奥歯を後ろへ動かす場所を確保するためです。矯正と親知らずの関係は矯正治療で親知らずは抜くべき?で詳しく紹介しています。
治療の経過
スライダーを動かすと、治療前から治療後までの歯並びの変化をご覧いただけます。
スライダーを動かすか、時点の文字をタップすると写真が切り替わります
治療結果には個人差があります。
20か月後には、下の前歯を抜いたすき間が閉じ、重なっていた前歯が並んでいます。治療後の下の歯の写真では、前歯が3本で、すき間なく1列に並んでいるのが分かります。
※治療期間には個人差があります。この症例と同じ期間で終わることをお約束するものではありません。当院の治療期間のデータは矯正治療の期間はどれくらい?当院の300症例以上のリアルデータ公開にまとめています。
横顔の変化
上の奥歯を後ろへ動かして前歯を下げたことで、口元も治療前より落ち着いた印象になりました。口元の出っ張りを大きく下げたい場合は、上下4本の抜歯を選ぶこともあります。口元の悩みについては口ゴボは矯正で治る?あなたのタイプ別に矯正歯科医が解説をご覧ください。
この症例から言えること
- 矯正の抜歯は「上下4本」だけではありません。歯並びによって抜く本数も場所も変わります
- 下の前歯を1本だけ抜けるかどうかは、上下の歯の大きさのバランス(ボルトン分析)で判断します
- 上の歯は、骨に入れたネジを支えに奥歯を後ろへ動かせば、抜かずに場所をつくれることがあります
- どの抜き方が合うかは、検査で歯と骨の状態を確かめてから決めます
費用と期間の目安
※2026年10月時点の当院の料金です(すべて税込)。この患者さまが治療を始めたときの料金とは異なります。
| 初診相談 | 無料(初診相談+CT簡易診断 4,400円) |
|---|---|
| 精密検査 | 16,500円(初診相談から3か月以内は4,400円割引) |
| 3Dデジタル診断(診断料) | 38,500円 |
| 表側矯正(クリアブラケット) | 83万〜93万円 |
| 毎回の調整料 | 4,400円/回 |
最新の料金は料金ページでご確認ください。
よくある質問
- Q. 下の前歯を1本抜いても大丈夫ですか?
- 歯並びによっては、下の前歯を1本抜いて残りの3本で前歯の列をつくる方法が適していることがあります。抜いたすき間は治療の中で閉じていきます。上下の歯の大きさのバランスや真ん中の位置への影響があるため、ボルトン分析などの検査で、適しているかどうかを判断します。
- Q. 下の前歯が3本になると見た目でわかりますか?
- 下の前歯は上の前歯に隠れやすく、並び方が整っていれば気づかれにくいことが多いです。ただし、歯の形によっては前歯の間に小さな三角形のすき間ができることがあります。仕上がりの見通しは治療前にご説明します。
- Q. 矯正の抜歯は必ず4本ですか?
- 必ずではありません。上下4本を抜くこともあれば、上だけ2本、下の前歯1本、抜歯なしなど、歯並びによって変わります。どの歯を何本抜くかは、ガタガタの量や噛み合わせ、口元をどこまで下げたいかで決めます。
- Q. 親知らずも抜く必要がありますか?
- 奥歯を後ろへ動かす場合は、その場所を確保するために親知らずを抜くことがあります。親知らずを残して奥歯として使える場合もあるため、検査で確認してから判断します。
- Q. 20代からでも矯正はできますか?
- できます。年齢による治療期間の差は小さく、この方も23歳で治療を始めています。当院では、矯正を始める方の約半数が23歳以上です。
院長より
「矯正で歯を抜く=4本」と思って、抜歯に抵抗を感じている方は多いと思います。でも、抜く歯の本数や場所は、歯並びによって変わります。この方は、下の前歯を1本だけ抜き、上の歯は骨のネジを支えに奥歯を後ろへ動かすことで、抜く歯を少なくして治療しました。どの方法が合うかは、検査で歯と骨の状態を確かめれば見えてきます。まずは初診相談で、ご自身の歯並びに合った治し方を一緒に考えましょう。