症例別の治療法について

【奈良の矯正歯科医が解説】歯の真ん中のずれと前歯の重なりは手術しないと治らない?18歳・手術なしで治した症例

氏井庸介

氏井矯正歯科クリニック
院長 氏井庸介

DOCTOR PROFILE

2026.10.06

「真ん中がずれている 歯が一本後ろにいっている」

初診の問診票に、ご本人がこう書かれていた18歳の女性です。前歯のでこぼこの重なりが多く、真ん中のずれもみられました。ご相談では「手術が必要かどうか」を一番気にされていました。

検査をすると、あごの骨のずれも重なった難しいケースでした。それでも手術はせずに、3本の抜歯で治療しています。抜く歯を左右で変えて真ん中をそろえた理由を、検査の数値とあわせてご説明します。

治療前の笑顔:前歯のでこぼこと真ん中のずれが見える状態
治療前の笑顔(正面)

症例:重度のでこぼこと真ん中のずれ(症例No.94)

初診の問診票では、気になることとして「ガタガタ」「上の歯が出ている」「前歯でものが噛み切れない」に丸がついていました。気になり始めたのは中学生のころで、きっかけはこう書かれています。

「鏡を見て歯がずれていると気づいたから」

受付でお聞きした内容も、次のように記録されています。

「真ん中ずれているが、手術が必要かどうか。ここが一番治ってほしい」

治療前から治療後までの写真は、症例集の症例94でもご覧いただけます。

患者症例No.94 / 18歳・女性 / 奈良市
主なお悩みガタガタ・真ん中のずれ・上の歯が出ている・前歯でものが噛み切れない
診断名骨格的な出っ歯(骨格性上顎前突)を伴う、重度のでこぼこ(叢生)
使用した装置白い表側のワイヤー矯正+矯正用のミニスクリュー+上下の歯にかけるゴム(顎間ゴム)
抜歯上の左右の第一小臼歯(前から4番目の歯)2本/左下の第二小臼歯(前から5番目の歯)1本 計3本
装置をつけて歯を動かした期間2年2か月
治療前 治療前:上下とも歯が重なり、上の前歯の1本が内側に入り込んで真ん中がずれている状態 治療6か月後:上下に白い表側の装置をつけて並べ始めた状態 治療1年後:でこぼこが減り、抜歯したすき間を閉じている状態 治療2年後:噛み合わせと真ん中を仕上げている状態 治療後:でこぼこが解消し、上下の真ん中がそろった状態
治療前
治療前6か月1年2年治療後

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治療結果には個人差があります。

主なリスク・副作用:歯ぐきが下がる(歯肉退縮)/歯の根が短くなる(歯根吸収)/歯の神経が弱る(歯髄壊死)/歯と骨がくっついて予定どおりに動かない(癒着)などが生じる可能性があります。抜歯には痛みや腫れを伴うことがあります。ミニスクリューは外れることがあります。保定装置を使わない場合は後戻りする可能性があります。

前歯の重なりが多く、真ん中もずれていた

治療前の写真では、上の前歯の1本が列から内側に入り込み、その周りの歯が重なっていました。下も、左下の小臼歯が列から内側に押し出されています。歯が並ぶ場所が、上下とも大きく足りていない状態でした。

  • でこぼこの量:約14mm。小臼歯(前から4・5番目の歯)1本の幅はおよそ7mmなので、歯2本分の場所が足りない計算です。当院でも「極めて重度」に入る量です
  • 真ん中(正中)のずれ:歯1本分。上下の前歯の真ん中が、歯1本分ずれていました。ご本人がいちばん治したいと話されていたのが、ここです

これだけ場所が足りないと、抜歯をせずに並べることはできません。抜かずに並べようとすると、歯が前に押し出され、口元がさらに出てしまいます。

骨格は「パターン3」、手術との境目

でこぼこに加えて、もう一つ確認が必要だったのが骨格です。ご本人も「手術が必要かどうか」を気にされていました。そこで、頭部のX線写真で骨と歯の位置を測るセファロ分析を行いました。セファロ分析そのものについては、セファロ分析とは?顔の特徴から読み解く矯正治療の方法(Part1)で詳しく解説しています。

治療前のセファロ分析:頭部の3D画像と各計測値
治療前のセファロ分析。右側の数値のうち、色が付いているほど平均から離れています

顔のタイプは「パターン3」

当院では、セファロ分析をもとに、顔のタイプを前後的要因(出っ歯・受け口の傾向)と垂直的要因(顔の縦の長さ)の組み合わせで9つに分類しています。分類の考え方は口ゴボ・出っ歯の原因をCT診断で解説【9分類パターン】で紹介しています。

前後的要因と垂直的要因で分類した9つの顔のタイプ
9つの顔のタイプ。この方は上段右の「パターン3(Class II・long face)」

この方はパターン3でした。

  • 前後的要因:骨格的な出っ歯(Class II)。上下のあごの骨の前後のずれ(ANB)は7.4°で、平均(約3°)より大きめ。上あごの位置はほぼ平均で、下あごが後ろにあることが原因でした
  • 垂直的要因:顔の縦の長さが長いタイプ(long face)。下あごの角度(FMA)は38.8°で、平均(約25°)よりかなり大きめ。このタイプは、治療中にあごの位置が変わりやすいため、噛み合わせの変化を細かく確認する必要があります

前歯の位置を3つの視点で見る

前歯の位置は、前歯の位置をセファロ分析で診断(Part2)で紹介している3つの視点で評価します。

視点この方平均わかったこと
骨格的な位置(ANB)7.4°約3°下あごが後ろにある、骨格的な出っ歯
上の前歯の傾き(U1 to SN)102°約102°上の前歯の傾きは平均どおり
口元のバランス(Eライン)――上下の唇が前に出ている

あわせて、下の前歯の傾き(IMPA)は108°で、平均(約90°)より18°前に傾いていました。下あごが後ろにある分を、下の前歯が前に傾いて補っている状態です。「上の歯が出ている」ように見えていたのは、上の前歯が出ているからではなく、下あごが後ろにあるためでした。

手術が必要かどうか

骨格的な出っ歯と縦に長い顔が重なると、手術を併用するかどうかの境目になることがあります。当院では、上下のあごのずれを総合的に評価する指標(KIX Index)も確認しています。この方は1.03で、外科を検討する目安(1.25以上)を下回っていました。手術をせずに、矯正で治療できる範囲と判断しました。

なぜ抜いたのは「上2本・左下1本」だったのか

抜歯というと「上下で左右対称に4本」を想像される方が多いのですが、この方は上の左右2本と、左下の1本だけにしました。

  • 上の左右の4番目の歯:上のでこぼこを並べ、内側に入り込んだ前歯を列に戻すための場所をつくりました
  • 左下の5番目の歯:列から内側に押し出されていた歯です。この歯を抜いて左側に場所をつくることで、ずれていた真ん中を戻す方向に歯を動かしました。左右対称に抜くと、真ん中のずれが残りやすくなります

ご本人は受付で「できたら犬歯や前の4本は抜きたくない」と話されていました。抜いたのは小臼歯だけで、前歯と犬歯はすべて残しています。

奥歯を後ろへ動かす方法が使えなかった理由

抜歯をせずに場所をつくる方法として、奥歯を後ろへ動かす方法があります。しかしこの方は、上あごの骨の中にある空洞(上顎洞)の底が低い位置にあり、上の奥歯を後ろへ動かすことが難しい状態でした。足りない場所が大きかったことも合わせて、抜歯で場所をつくる計画にしました。

抜く・抜かないの判断基準は、矯正で抜歯は必要?判断基準と非抜歯のリスクを症例で解説でも詳しく紹介しています。

ご本人は抜歯をどう受け止めていたか

問診票の「矯正治療で抜歯が必要なことがありますが、そのことについてどうお考えですか?」という質問には、「きれいに治るなら抜歯しても良い」に印がついていました。受付では「装置が見える見えないより、期間を短く早く終わりたい」とも話されています。検査結果をもとに、なぜ抜歯が必要なのか、なぜ左右で抜く歯が違うのかを説明し、この計画で進めることになりました。

装置をつけてから2年2か月で整った

前歯の重なりが多く、真ん中もずれていたため、歯を動かす量は大きくなります。この方は、次の工夫を組み合わせて治療を進めました。

  • 上のミニスクリュー:上の奥歯が前に出てこないよう、骨に入れた小さなネジを支えにしました
  • 上下の歯にかけるゴム:上下の噛み合わせの位置と真ん中を合わせるため、1日中ゴムをかけていただきました。使い方は顎間ゴム(エラスティック)とは?で紹介しています
  • デンタルモニタリング:ご自宅で歯の写真を撮影し、AIが歯の動きを確認する仕組みで、来院のあいだも変化を見ていました。詳しくはワイヤー矯正×デンタルモニタリングをご覧ください

縦に長い顔のタイプは、治療中にあごの位置が変わりやすいため、噛み合わせの変化を確認しながら進めました。

※治療期間には個人差があります。この症例と同じ期間で終わることをお約束するものではありません。当院の治療期間の実績は、矯正治療の期間はどれくらい?当院の300症例以上のリアルデータで紹介しています。

治療前から気をつけていたこと

検査の段階で、治療前から分かっていた注意点が3つありました。

  • 歯ぐきが薄く、歯を大きく動かすと歯ぐきが下がりやすいこと
  • 歯の形から、歯と歯ぐきの間に小さな三角形のすき間(ブラックトライアングル)ができやすいこと
  • 下の奥歯のあたりで、抜歯したすき間が閉じきらない可能性があったこと

結果として、すき間を残さずに上下の歯を並べ、真ん中もそろえることができました。治療後の写真で、前歯の真ん中と下の歯の並びをご覧ください。

治療前と治療後の笑顔の比較:前歯の重なりがなくなった歯並び
治療前(左)と治療後(右)の笑顔
この症例の詳細ページを見る 治療前後の写真を、症例ページでさらに詳しくご覧いただけます

この症例から言えること

  • 前歯の重なりが多い重度のでこぼこでも、手術をせずに治せることがあります
  • 真ん中のずれがある場合、抜く歯は左右対称とは限りません
  • 手術が必要かどうかは、見た目ではなくセファロの数値で判断します

費用と期間の目安

※2026年10月6日時点の当院の料金です(すべて税込)。この患者さまが治療を始めたときの料金とは異なります。

初診相談無料(初診相談+CT簡易診断 4,400円)
精密検査16,500円(初診相談から3か月以内は4,400円割引)
3Dデジタル診断(診断料)38,500円
表側矯正(クリアブラケット)83万〜93万円(税込)
毎回の調整料4,400円/回

抜歯は、提携する歯科医院で行います(費用は別途)。最新の料金は料金ページでご確認ください。

よくある質問

Q. でこぼこがひどくても、矯正で治せますか?
治せることが多いです。足りない場所の量によって、抜歯の本数や方法が変わります。今回の方は前歯の重なりが多く、3本の抜歯で場所をつくって治療しました。
Q. 歯の真ん中のずれは治りますか?
歯の位置によるずれであれば、矯正で改善できることがあります。今回の方は真ん中が大きくずれていましたが、抜く歯を左右で変えることで真ん中をそろえました。あごの骨そのもののずれが大きい場合は、手術を併用することがあります。
Q. 出っ歯は手術が必要ですか?
あごの骨のずれが大きい場合は手術を併用することがあります。当院ではセファロ分析の数値で判断します。今回の方は骨格的な出っ歯でしたが、数値が外科の目安を下回っていたため、手術をせずに矯正で治療しました。
Q. 抜歯の本数は、上下・左右で同じでないといけませんか?
いいえ。でこぼこの量や真ん中のずれに合わせて、左右や上下で抜く歯や本数を変えることがあります。上の2本だけ抜歯した例は上の2本だけ抜歯して11か月で整えた25歳女性の症例をご覧ください。
氏井矯正歯科クリニック 院長

院長より

正直に言うと、とても大変な症例でした。前歯の重なりが多く、真ん中もずれていて、骨格的な出っ歯と縦に長い顔のタイプも重なっていました。動かせる方向が限られる中で、どの歯を抜けば真ん中がそろうかを考えて計画を立てています。「手術が必要かもしれない」と心配されている方も、まずは検査で骨と歯の位置を測ってみましょう。手術が必要かどうかは、数字で判断できます。

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