症例別の治療法について

【奈良の矯正歯科医が解説】出っ歯とでこぼこは抜歯しないと治らない?17歳・歯を抜かずに治した症例

氏井庸介

氏井矯正歯科クリニック
院長 氏井庸介

DOCTOR PROFILE

2026.10.06

「出っ歯を治すには、歯を抜かないといけない」と思っている方は少なくありません。たしかに抜歯が適した出っ歯もありますが、すべてではありません。

今回ご紹介するのは、出っ歯と口元が気になって来院された17歳の女性です。検査をすると、上下の前歯がそろって前に傾いた上下顎前突(口ゴボ)の傾向があり、4本抜歯で治す選択肢もある歯並びでした。それでも抜歯はせずに、奥歯を後ろへ動かして場所をつくり、前歯を下げる方法で治療しました。装置をつけて歯を動かした期間は1年です。抜歯をする治し方と比べて、なぜ抜かずに始めたのかを、頭部のX線写真(セファロ)の数値とあわせて説明します。

症例:出っ歯と口元の突出(症例No.31)

初診の問診票では、気になることとして「出っ歯」と「横顔(口元が出ている)」に丸がついていました。受付でお聞きした内容は、次のように記録されています。

「右上前歯2本が気になる」

「小さい頃から、ご本人様が気にされていた」

治療前から治療後までの写真は、症例集の症例31でもご覧いただけます。

出っ歯の相談で多いのが、「歯を抜く必要があるのか」という質問です。この方も、問診票の「不安に感じること」で「歯を抜く」に丸をつけていました。

患者 症例No.31 / 17歳・女性 / 奈良市
主なお悩み 出っ歯(特に右上の前歯2本)・口元が出ている
診断名 歯とその土台の骨が前に出ている出っ歯(骨歯槽性上顎前突)。上下の前歯の前傾(上下顎前突の傾向)と、上下に中等度のでこぼこ(叢生)あり
使用した装置 白い表側のワイヤー矯正+矯正用のミニスクリュー
抜歯 なし(非抜歯)
装置をつけて歯を動かした期間 1年
治療前 治療前:上の前歯が前に出て、上下の歯にでこぼこがある状態 治療4か月後:上下に白い表側の装置をつけた状態 治療8か月後:前歯が後ろへ下がってきた状態 治療10か月後:上下の噛み合わせを仕上げている状態 治療後:出っ歯とでこぼこが改善した状態
治療前
治療前4か月8か月10か月治療後

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治療結果には個人差があります。

主なリスク・副作用:歯ぐきが下がる(歯肉退縮)/歯の根が短くなる(歯根吸収)/歯の神経が弱る(歯髄壊死)/歯と骨がくっついて予定どおりに動かない(癒着)などが生じる可能性があります。ミニスクリューは外れることがあります。保定装置を使わない場合は後戻りする可能性があります。

出っ歯の原因は、骨か、歯か

出っ歯には、あごの骨そのものが前に出ているタイプと、歯が前に傾いているタイプがあります。どちらなのかで、治し方が変わります。そこで、頭部のX線写真で骨と歯の位置を測るセファロ分析を行いました。セファロ分析そのものについては、セファロ分析とは?顔の特徴から読み解く矯正治療の方法(Part1)で詳しく解説しています。

治療前のセファロ分析:頭部の3D画像と各計測値
治療前のセファロ分析。右側の数値のうち、色が付いているほど平均から離れています

顔のタイプは「パターン8」

当院では、セファロ分析をもとに、顔のタイプを前後的要因(出っ歯・受け口の傾向)と垂直的要因(顔の縦の長さ)の組み合わせで9つに分類しています。分類の考え方は口ゴボ・出っ歯の原因をCT診断で解説【9分類パターン】で紹介しています。

前後的要因と垂直的要因で分類した9つの顔のタイプ
9つの顔のタイプ。この方は下段中央の「パターン8(Class I・short face)」

この方はパターン8でした。

  • 前後的要因:正常(Class I)。上下のあごの骨の前後のずれ(ANB)は2.8°で、平均(約3°)とほぼ同じ。あごの骨の位置は、出っ歯でも受け口でもありませんでした
  • 垂直的要因:顔の縦の長さが短いタイプ(short face)。下あごの角度(FMA)は14°で、平均(約25°)よりかなり小さめ。このタイプは噛み合わせが深くなりやすく、上の前歯が下の前歯に深くかぶさっていました

上の前歯の位置を3つの視点で見る

前歯の位置は、前歯の位置をセファロ分析で診断(Part2)で紹介している3つの視点で評価します。

視点 この方 平均 わかったこと
骨格的な位置(ANB) 2.8° 約3° あごの骨のバランスは正常
上の前歯の傾き(U1 to SN) 108° 約102° 平均より前に傾いていた
口元のバランス(Eライン) ― ― 上下の唇が前に出ていた

下の前歯も前に傾いていた

この方でもう一つ大事だったのが、下の前歯です。

計測項目 この方 平均 わかったこと
下の前歯の傾き(IMPA) 108° 約90° 平均より18°、前に傾いていた
上下の前歯どうしの角度(U1 to L1) 113° 約128° 上下の前歯がどちらも前に倒れ、角度が小さくなっていた

ここから分かったのは、あごの骨の位置は正常で、上の前歯も下の前歯も前に傾いているということです。上の前歯だけが出ている「出っ歯」というより、上下の前歯がそろって前に出ている上下顎前突(口ゴボ)の傾向がある歯並びでした。問診票で「口元が出ている」に丸がついていたのも、このためです。

あわせて、上の奥歯が下の奥歯に対して前寄りの位置で噛んでいること(Angle Class II)も分かりました。問題は骨ではなく「歯の位置と傾き」なので、手術をしなくても矯正で治せるタイプです。

抜歯をする治し方も、正解のひとつだった

上下の前歯がそろって前に傾いている場合、よく選ばれるのは上下の歯を2本ずつ、計4本抜歯して、前歯を大きく後ろへ下げる治し方です。抜いたすき間の分だけ前歯を下げられるので、口元(唇の出方)まで大きく変えることができます。

この方も、セファロの数値だけを見れば4本抜歯で口元までしっかり下げる計画も十分に考えられる歯並びでした。抜歯をしない方法で前歯を下げられる量には限りがあるため、口元の変化だけで比べれば、抜歯をしたほうが大きく変わります。

一方で、上の前歯の傾き(U1 to SN 108°)は、上の2本だけを抜歯した症例54(123°)ほど大きくはありませんでした。でこぼこも中等度で、噛み合わせにも大きな問題はありません。抜かなければ治らない歯並びではなかった、ということです。

それでも「抜かずに始める」ことにした理由

抜く・抜かないのどちらも選べるとき、決め手になるのはご本人がどこまで治したいかです。この方は問診票で「歯を抜く」ことに不安を感じていて、初診相談でも「抜かないでワイヤーで」という方向でお話をしました。

そこで最初から、途中で判断し直す「2段階」の計画にしました。

  • 第1段階:抜歯をせずに治療を始め、奥歯を後ろへ動かして前歯を下げる
  • 第2段階:治療開始から約1年後に改めて診断し、口元をもっと下げたい場合は、その時点で上下4本の抜歯に切り替える

先に歯を抜くと、あとから元には戻せません。抜かずに始めて途中で見極めるほうが、ご本人に選べる道が多く残ります。この方は、抜かずに前歯を下げた段階で口元をさらに下げることは希望されず、最後まで抜歯をせずに治療を終えました。

抜く・抜かないの判断基準は、矯正で抜歯は必要?判断基準と非抜歯のリスクを症例で解説でも詳しく紹介しています。口元が気になる場合の考え方は、口ゴボ・出っ歯の原因をCT診断で解説もご覧ください。

抜かずに前歯を下げる仕組み

抜歯をしない場合、前歯を下げる場所は、奥歯を後ろへ動かしてつくります。

歯列を横から見た模式図(左が前歯・右が奥歯)① 奥歯を後ろへ動かして場所をつくる → ② その分、前歯を後ろへ下げる治療前前歯治療前奥歯ミニスクリュー(支え)
実際の歯の動きを単純化した図です。動く量は症例によって異なります
  • ミニスクリューで奥歯を後ろへ:歯どうしで引っ張り合うと、下げたい前歯だけでなく奥歯も前に出てきます。そこで、骨に小さなネジ(矯正用のミニスクリュー)を入れ、動かない支えとして使いました。若い方はミニスクリューが外れやすく、頭にかぶる装置(ヘッドギア)に切り替えることがありますが、この方は安定していたため、切り替えずに最後まで進められました。ミニスクリューについてはミニスクリューの成功率93%は本当?で解説しています
  • 歯の幅をわずかに整える:でこぼこを並べる場所を補うため、歯と歯の間をごくわずかに削って幅を整える処置を計画に入れました。歯の表面のエナメル質の範囲で行います
  • 上下の歯にかける小さなゴム:上下の噛み合わせの位置を合わせるため、顎間ゴムを使っていただきました。ゴムは長くかけていただけるほど、噛み合わせがスムーズに整っていきます。使い方は顎間ゴム(エラスティック)とは?で紹介しています

装置は、ご本人の不安に合わせて選んだ

問診票の「不安に感じること」には、治療方法・治療期間・歯を抜く・治療中の痛み・装置の見た目・日常生活に支障がないかの6つに丸がついていました。受付では、実習のときに装置が見えるかが気になること、裏側矯正に興味があることも伺っています。

初診相談では、裏側・マウスピース・表側の3つを比べてご説明しました。歯を動かす原理はどの装置も同じです。違うのは、得意な場面と毎日の管理の手間です。

  • 裏側矯正:表から見えにくい一方、費用が高く、舌が当たって話しにくさを感じやすい
  • マウスピース型矯正:目立ちにくい一方、1日22時間以上の装着が必要で、食事や歯みがきのたびに外し、ゴムかけも自分で管理する
  • 表側矯正(白い装置):見えやすさはあるが、自分で外す管理がいらない

この方の治療は、ミニスクリューと上下のゴムを使って奥歯を大きく後ろへ動かす計画でした。学校生活で装置を外して管理する手間も考え、白い表側の装置を選ばれました。部活や受験との両立については、中学生・高校生の矯正治療|部活・受験と両立できる?もご覧ください。

装置をつけてから1年で整った

治療開始から4か月後には上下に装置がつき、ミニスクリューを支えにした奥歯の移動が始まっています。8か月後、10か月後と進むにつれて、出ていた右上の前歯が列に収まり、上下のでこぼこも整っていきました。

初診相談では約2年を見込んでいましたが、この方の場合、装置をつけて歯を動かした期間は1年でした。ミニスクリューが安定していたことと、ゴムかけを続けていただけたことが大きかったと考えています。

※治療期間には個人差があります。この症例と同じ期間で終わることをお約束するものではありません。ほかの症例の「1年でどこまで動くか」は、治療開始から約1年後の歯並びを13症例で比較にまとめています。

治療前から気をつけていたこと

検査の段階で、治療前から分かっていた注意点が3つありました。

  • 噛み合わせが深くなりやすい骨格(FMA 14°)で、前歯を下げるときに噛み合わせがさらに深くならないよう確認が必要だったこと
  • 歯ぐきが薄く、特に下の前歯の歯ぐきが下がりやすいこと
  • 歯の形から、歯と歯ぐきの間に小さな三角形のすき間(ブラックトライアングル)ができやすいこと

結果として、噛み合わせが深くなりすぎることはなく、歯ぐきの下がりや目立つ三角形のすき間もない状態で仕上がりました。治療後の写真で、前歯の噛み合わせと歯ぐきのラインをご覧ください。

この症例の詳細ページを見る 治療前後の写真を、症例ページでさらに詳しくご覧いただけます

この症例から言えること

  • 上下の前歯が前に出ている歯並びでも、抜歯をする・しないの両方の治し方があります
  • どちらを選ぶかは、セファロの数値と「どこまで口元を下げたいか」で決めます
  • 抜かずに前歯を下げるには、奥歯を後ろへ動かして場所をつくる方法があります
  • 「まず抜かずに始めて、途中で判断し直す」という進め方もあります

同じ出っ歯でも、上の歯を2本抜歯して治療した例は上の2本だけ抜歯して11か月で整えた25歳女性の症例で紹介しています。上の前歯の傾きは、症例54が123°、今回の方が108°。抜く場合と抜かない場合の違いを、セファロの数値で比べてみてください。

費用と期間の目安

※2026年10月5日時点の当院の料金です(すべて税込)。この患者さまが治療を始めたときの料金とは異なります。

初診相談 無料(初診相談+CT簡易診断 4,400円)
精密検査 16,500円(初診相談から3か月以内は4,400円割引)
3Dデジタル診断(診断料) 38,500円
表側矯正(クリアブラケット) 83万〜93万円(税込)
毎回の調整料 4,400円/回

最新の料金は料金ページでご確認ください。

よくある質問

Q. 出っ歯は抜歯しないと治りませんか?
必ずしも抜歯が必要なわけではありません。でこぼこが大きくなく、奥歯を後ろへ動かす余地がある場合は、抜かずに前歯を下げられることがあります。口元を大きく下げたい場合や、でこぼこが大きい場合は、抜歯が適していることがあります。抜歯をした例は上の2本だけ抜歯した25歳女性の症例をご覧ください。
Q. 口ゴボ(上下顎前突)は抜歯しないと治りませんか?
口元を大きく下げたい場合は、上下4本の抜歯が適していることが多いです。ただ、骨のバランスが正常で前歯の傾きが中程度なら、抜かずに奥歯を後ろへ動かして前歯を下げる方法もあります。抜かない場合は口元の変化が小さくなるため、どこまで下げたいかを相談して決めます。
Q. 途中で「やっぱり抜歯する」ことはありますか?
あります。今回の方のように、まず抜かずに始めて、途中で口元をもっと下げたいかを確認し、希望があれば抜歯に切り替える計画を立てることがあります。切り替える可能性があるかは、治療開始前にご説明します。
Q. ミニスクリューは痛くないですか?
処置は短時間で終わります。痛みの感じ方には個人差がありますが、処置後に痛みが出た場合の痛み止めは当院からお渡しします。
Q. 高校生でも治療を始められますか?
始められます。10代は骨の代謝が活発で歯が動きやすく、歯ぐきなど歯を支える組織が健康な状態で治療を始められることが多い年代です。通院は原則月1回で、学校の予定に合わせてご予約いただけます。
氏井矯正歯科クリニック 院長

院長より

「抜かずに治したい」というご希望は自然なものです。ただ、抜かない方法にもできることとできないことがあります。この方は、セファロの数値だけを見れば4本抜歯でも良い歯並びでした。それでも、最初に「抜かずに始めて、途中で決め直す」という道筋を決めたことで、ご本人が納得できる形で治療を終えられました。抜く・抜かないは、見た目だけでは決められません。骨と歯の位置を測ったうえで判断します。まずは初診相談で、ご自身の出っ歯の原因を一緒に確認しましょう。

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